研究概要 |
光と物質の相互作用は,光の波長,エネルギー密度,レーザーのパルス幅,物質の吸光係数等により,起こる現象が大きく異なる。エネルギー密度の高いパルスレーザーを照射し固体表面に強光子場を形成すると,光を吸収した表面近傍の原子・分子は高密度・高励起状態になり,その後エネルギー緩和により融解・蒸発し,最終的に原子,分子,クラスターが固体表面から気体状となって噴出する。このような過程で生成した気体状物質の中には,新規機能性材料や未来材料が多く含まれる。つい最近では,この手法(パルスレーザーアブレーション法,以下PLA法)を用いたカーボンナノチューブ・ナノホーンの大量合成(1kg/day)が有名である。 PLA法による機能性材料の生成には以下の2つの過程が重要である。1つは,上述した気体状物質の噴出までの過程である。もう1つは,噴出後のHotなガス状物質の冷却過程,ならびに噴出した原子集団が凝集しナノ材料を形成してゆくビルドアップ過程である。筆者は,後者の「冷却過程」ならびに「ビルドアップ過程」に注目し,これらの過程を制御するために,数年前に超臨界流体をさきがけて導入した。超臨界流体を用いるメリットは,1)超臨界流体には相転移がないため,冷却媒体の密度を気体的にも液体的にも自由に変化できる,2)超臨界流体中の分子は生成したナノ材料に選択的に吸着する特質を有する,である。このように超臨界流体中で強光子場を用いてナノ材料を創製すると,生成直後の「冷却過程」ならびに「ビルドアップ過程」を制御し,その結果機能性材料の選択的創製が可能となってきた。ここ数年の研究で,金やシリコンのナノ材料創製を行い,生成したナノ材料の色(電子状態),形状などを制御できるようになった。つい最近の研究からは,生成したナノ材料の生成量と超臨界流体の局所構造がどのように相関しているのかを,相図上に3次元で地図を形成し説明できるようになった。このように,今まで行ってきた分子科学の研究と,ナノ材料の材料科学の研究が,よい方向に結びつき相補的に理解できるようになってきた。
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