研究概要 |
平成17年度は、主に、(i)連続電子線源を用いた高感度電子回折装置の開発を行い、また強レーザー場における新しい分子の振る舞いとして、(ii)炭化水素分子からの水素分子イオン放出過程を調べた。成果を以下にまとめる。 (1)超短パルスレーザー場からの微弱な散乱電子を検出するためには、(i)レーザー場に晒されていない電子からの散乱、および(ii)非散乱電子によるバックグランドを極めて小さくする必要がある。特に、非散乱電子がビームダンパー(ファラデーカップ)で捉えられた際の反跳電子、二次電子が主たるバックグランドになる。そこで、半円型ファラデーカップを開発した。これは、半円型の電極に電圧をかけ、非散乱電子の軌道を入射方向と逆方向に曲げることにより反跳電子を極力拗える効果がある。実際に、半円型ファラデーカップを用いることにより、MCP二次元検出器で検出されたバックグランド電子は入射電子に対して10^<-10>程度まで減らすことができた。 (2)高分解能エネルギー損失分光システムの構築と並行して、強レーザー場中の分子の新しい振る舞いの観測を目指しメタノール、アセトンなどの炭化水素分子を対象に実験を行った。強レーザー場を照射することにより、炭化水素分子から水素分子イオンH_2+,H_3+が放出されることが明らかとなった。とくに、メチル基を持たない、ブタジエン、シクロヘキサンからH_3+が放出されたことは、強レーザー場励起によって、分子骨格を水素原子あるいはプロトンが高速に移動していることを表している。このような水素分子イオン放出ダイナミクスは、レーザー場の中で十分進行していると考えられ、強レーザー場中分子の電子エネルギー損失分光実験のターゲットとして有力な反応系である。
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