平成17年度までに、パラジウム触媒を利用することにより炭酸ベンジルエステル類と各種求核剤との求核置換反応を実現し、酢酸エステル類と有機ホウ素化合物との交差カップリングを実現した。そこで、平成18年度は以下の研究に着手し、成果を挙げた。 まず、マロン酸エステル炭素アニオンの酢酸ベンジル類への求核置換反応を検討し、この反応が第三級アルコール溶媒中で円滑に進行することを見出した。これにより、ベンジルエステル類の求核置換反応において酢酸エステルを脱離基として利用することに成功した。 従来、炭酸ベンジル類の求核置換反応ではα位に分岐をもつ基質の利用が不可能であった。そこで、この問題について検討したところ、二座ホスフィン配位子Cy-Xantphosのパラジウム錯体を用いることにより、ジフェニルメチルエスエルの求核置換反応が進行することを見出した。 さらに、電子供与性の二座ホスフィン配位子D-i-PrPFを用いることにより、パラジウム触媒による炭酸ベンジル類の求核置換反応の反応速度が飛躍的に向上し、触媒量の低減を実現した。さらに、D-i-PrPF-パラジウム触媒を利用することにより室温での反応を実施できるようにした。 最後に、D-i-PrPFが配位した0価パラジウム錯体と炭酸ベンジルとの反応をNMRで追跡し、パラジウム錯体がベンジル位炭素-酸素結合を切断し、(ベンジル)パラジウム錯体を与えることを証明した。また、この錯体のX線結晶構造解析を行い、その三次元構造を明らかにした。
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