本申請者は高い量子収率を有する光電変換素子を既に開発した。これらの素子では、電子ドナーとアクセプター間が従来の系のように共有結合でつながれているのではなく、弱い相互作用によって積層されている。この相互作用を"外部情報"により制御できれば、光電流値の変化により外部情報を読み出すことが可能な化学センサーとして応用できるものと考えた。この光電変換型センサーは、これまでの蛍光などの光を用いたセンサーや電気化学を用いたセンサーの欠点を補い、利点を活用できるものと期待できる。特に、本研究ではATPの検出を目指し検討を行なっている。アデノシン三りん酸(ATP)センサーは生菌検出が可能であることから、食品加工および水質評価現場で特に需要が高いことが知られている。 昨年度は、光増感部位ならびに分子認識部位としてポルフィリンをITO電極上に積層することにより、ATPセンサーとして利用できることを明らかとした。本年度はさらに高感度なセンサーの開発を目指し、ポルフィリンの積層量を増大させることを考えた。そのために、酸化チタン微粒子を高分子により基板上に固定化することにより、電極の表面積を大きくすることでポルフィリンの積層量の増大を目指した。実際に、高分子-酸化チタン-ポルフィリン膜を積層したITO電極を作製したところ、これまでの系に比べ10倍の積層量を有する薄膜が作製できた。この電極をセル内に浸け、ATPを添加すると光電流値がATPの添加量に伴い減少することが明らかとなった。ポルフィリンの積層量が多いことから、以前の系に比べその感度は高くなり誤差が少なくなることが明らかとなった。しかし、何度も使用しているうちに、光電流値の減少が確認された。この原因は、ポルフィリンの電極からの剥離が原因であると考えられる。今後、この剥離を抑えるため、酸化チタン-ポルフィリン間の相互作用の強化が必要となる。
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