研究概要 |
本研究では、(1)酸化反応サイトとなる触媒(助触媒)の開発と(2)O2p軌道に代わって価電子帯を形成する光触媒材料の探索・合成の二つの研究を実施することで可視光を有効に利用できる水の光分解反応系および有機化合物の変換反応系を構築することを目的とする。本年度は、特に(2)の研究を中心に行った。O2p軌道よりもエネルギーレベルの高い金属d軌道あるいはs軌道からなる価電子帯を形成させることを目的として、さまざまな元素を含む複合酸化物の合成を実施した。組み合わせる元素としては、励起電子のポテンシャルが水や酸素の還元力を有し、なおかつ、キャリアの移動度が高いことを考慮して、Ti(IV)(Ti3d)を中心に探索した。その結果、水熱合成法によってSn(II)とTi(IV)を含む複合酸化物(Sn-Ti-O)を得た。Sn-Ti-Oについて可視光(λ>420nm)照射によるイソプロパノールからの水素発生反応の活性を調べたところ、反応開始10時間で触媒量を超える水素を発生した。このとき量子収率は3.5%(at 450nm)であった。また、アクションスペクトルを測定した結果、水素の生成速度にはSn-Ti-Oが有する可視光領域の吸収スペクトルに対応した波長依存性が見られた。以上から、Sn-Ti-Oは可視光で機能する光触媒であることが明らかになった。なお、X線回折測定を行ったところ、Sn-Ti-O,は既知の酸化物とは異なる結晶構造をもっていることがわかった。詳しい構造解析については現在調査中である。今後、多結晶電極の作製とこれを利用した電気化学測定や各種分光法等により、得られた光触媒材料の価電子帯および伝導帯の電位を明らかにする予定である。
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