水電解による水素製造効率は、電極間の発生気泡の影響を受けるため、電極間隔には最適条件が存在する。本研究代表者はこれまでに、自然循環系のアルカリ水電解を対象として、電解効率の第1次近似的な物理モデルを構築し、その検証として局所電流密度・電極間発生気泡の上昇速度・電極間中心部の気泡直径分布を測定し、モデルの妥当性を確かめた。本研究は、自然循環系と強制循環系のアルカリ水電解を対象として、ハイスピードカメラを用いた電極間気液二相流の観察を通じて、統合的な電解効率のモデル構築を目指す。 本年度はまず、強制循環系のアルカリ水電解が可能な実験装置のセットアップを行い、主に自然循環系のアルカリ水電解時の電極間気液二相流の観察を行った。また、次年度以降の準備として強制循環系の水電解実験も一部実施した。以下、得られた知見の要点を記す。 1.ハイスピードカメラによる自然循環系水電解の観察・可視化により、電極間気泡上昇速度(10〜30cm/s)を精度良く計測することができた。これらのデータは、過去に得られた気泡上昇速度とほぼ一致しており、データの信頼性が確かめられた。 2.強制流動系アルカリ水電解時の電極間気液二相流の観察・可視化に成功した。電極間平均流速は0〜2.0m/s、電極間隔は1〜30mm、電流密度は0.1〜2.0A/cm^2、の範囲で設定できた。 3.強制流動系の場合、電解効率が最大となる最適電極間隔は、流速の増大と共に小さくなった。これは、過去に構築した電解効率の第1次近似的モデル式において気泡上昇速度を液体流速に置き換えたものと定性的に同様の傾向を示している。しかし、気泡上昇速度測定値をモデル式に代入しても最適電極間隔の値は定量的には一致せず、また、電極間平均ボイド率の値もモデル予測値は実験値と異なっており、モデルの改良(電極間気泡上昇速度分布の考慮、等)が必要であることを示唆している。
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