研究概要 |
平成16年度はこれまで研究を進めてきたナロウギャップ半導体InAsを用いた量子カスケードレーザーの低閾値電流密度化と波長5ミクロンまでの短波長化について研究を行った。以下にその成果を示す。 (1)低閾値電流密度化 大きな振動子強度を持つInAs/AlGaSb超格子構造を活性層に用いたInAs量子カスケードレーザーを作製し、低閾値電流密度化に成功した。観測された閾値電流密度は0.42kA/cm^2とこれまで報告されている量子カスケードレーザーの温度80Kにおける最低閾値電流密度に近い値である。又注入層から活性層へのキャリアの熱再励起を抑える構造を用いることで動作温度を270Kまで増大させることに成功した(JJAP Express Letters 2004,Submitted to APL 2005)。さらに光利得係数及び閾値電流密度などをモデル化し、実験値と比較検討を行なったところ、200K以上での高温領域における閾値電流密度の増大は、熱励起されたフォノンによる注入効率の減少であることがわかった。 (2)波長5μmまでの短波長化 2.1eVと非常に大きい伝導帯バンドオフセットエネルギーを持つInAs/AlSb量子井戸構造を用いて、波長5μmで動作するInAs量子カスケードレーザーを作製した。高電界印加によるZenerトンネル及びImpact Ionizationを抑制する方法として、注入層に高濃度ドーピングを行ない注入層の擬フェルミ準位を増大させて動作電界を減少させる手法を提案し、実際に実験的に確かめた。注入層におけるドーピング濃度が低い場合には、Zenerトンネル及びImpact Ionizationによってホールが生成されるが、注入層のドーピング濃度が高い場合には、ホールの生成が抑えられることがわかった(Submitted to APL2005)。この手法により動作波長4.8μmまでの短波長化に成功した。
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