本研究では、次世代不揮発性メモリとして注目されるMFS-FETの開発を目指し、無機強誘電体では高温プロセスから困難とされるSiチャネル上への強誘電体膜の直接堆積を有機強誘電体により実現し、新たな概念に基づく不揮発性メモリ創成を目標とするものである。本年度は、「真空・低温クエンチ法」によるSi基板上への有機強誘電体堆積とその配向・構造評価を行うと共に、電気特性評価を行った。有機強誘電体としてビニリデン・フルオライド(VDF)オリゴマーを選択し、高/低ドープp型Si基板上に有機強誘電体薄膜を形成した。基板温度・蒸着速度など成膜条件の最適化により、分子鎖を基板平行方向に制御した強誘電性結晶相のVDFオリゴマー薄膜の形成に成功した。その後、Al上部電極を蒸着してSi/VDF/Alキャパシタ構造を形成し、電気測定を行った。その結果、高ドープ基板上では矩形なD-Eヒステリシス特性の発現に成功した。無機強誘電体では、Si基板上への薄膜形成時にSiO2が同時形成されて明瞭なヒステリシス発現が難しいが、本研究では簡単簡便にその実現に成功し、有機強誘電体の応用可能性を強く示した。低ドープSi基板では、DEヒステリシスの正方向側で、Ecの高電界シフトが観測された。これはp-Si基板内での空乏層形成を期待させる。そこで、Si空乏層の形成有無を詳細検証するため、高周波容量-電圧(CV)測定を行った。高ドープSi基板上に作製したデバイスでは、正負の抗電界付近にて容量が増大するバタフライ特性が観測された。一方、低ドープSi基板では、有機強誘電体の分極反転に依存したC-V特性の履歴が観測された。このC-V曲線はSi空乏層の形成を強く示唆し、メモリ幅:8.5V、容量比:約2:1となった。本結果は、有機強誘電体のダイポール制御によってSiチャネル変調が可能であることを示唆している。
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