研究課題
本研究では、無機強誘電体によるMFS-FET(Metal Ferroelectric Semiconductor-Feild Effect Transistor)では解決困難な(1)Si/強誘電体の界面での界面準位形成、(2)膜堆積時の不要なSiO_2膜形成、などの諸問題を解決策する方策として、低温条件での成膜が可能な「有機強誘電体」をゲート絶縁膜として用いることを提案し、清浄なSi/強誘電体界面の形成と有機強誘電体の分極挙動がSi半導体特性に及ぼす影響について明らかにすることを目的とした。有機強誘電体として高い残留分極値が期待されるビニリデン・フルオライド(VDF)オリゴマーを用いてSi基板上に積層型のMFS構造を形成し、容量-電圧(C-V)測定、誘電ヒステリシスの測定を行った。金属性Siを基板として用いた実験において、無機強誘電体では難しいDEヒステリシス発現に成功した。Alなど金属電極を用いた実験データと比較しても、その残留分極値、抗電界に変化はなく、Siと有機強誘電体との良好な界面形成が示唆された。一方、半導体性Si基板では、Si空乏層の形成を示唆する特定電圧挿引方向での抗電界上昇が観測された。そこでSi半導体のドープ濃度や測定周波数、印可電圧などをパラメータとしてCV評価を行い、空乏層の形成有無、形成された空乏層の厚み、メモリウインド、ON/OFF容量比など、有機強誘電体のダイポールがSi空乏層に及ぼす影響を検証した。その結果、抗電界近傍での容量の急激な上昇から、分極反転と強く相関したCV特性の明確なヒステリシス特性が観測され、メモリウインド:11.5V、容量ON/OFF比:2:1、空乏層幅500nmなどの特性が概算できた。総じて、本実験の実施により有機強誘電体によるSi半導体特性の変調が十分に可能であることを実証した。また、キャパシタ構造での有機強誘電体の赤外線に対する焦電応答特性の観測にも成功しており、赤外センサーへの展開も可能であることを示唆した。
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