研究概要 |
本年度は昨年度に引き続き、日本の精神病院を訪問し,病室を中心に精神疾患患者がどのような療養環境で生活しているかを調査した。それに加え、近年大規模な建て替えを行った精神病院に対してアンケート調査を実施し、多床室と個室の構成比、患者一人あたりの病室面積など、患者の療養環境の中でも基礎的な物理的条件の変化の傾向をつかんだ。それによると、個室の比率が高くなり、一人あたり面積も格段に向上し、これまで貧困とされていた精神病院の建物は大きく変化しつつあることが裏付けられた。 同時に、アンケート調査では患者の平均在院日数についても尋ねた。療養環境の向上が良い治療成績に結びつくとの仮定を立てているためである。しかし期待していたほど平均在院日数の減少は多くなく、逆に大幅に増加している病院さえ見られた。予想として、アンケート調査を実施した病院がある程度以上の規模を持つものであるために、精神病院の機能分化に伴って重度患者を中心に受け入れる病院が増え、治療の時間かかかるためだと考えられた。この点については今後の確認が必要である。 平均在院日数が減少した病院については、,実際に現地を訪問し、スタッフに対するヒアリング調査を行った。その結果、建物がきれいになることでまず外来に若い患者が増えること、そして入院の段になって病棟見学を行っても尻込みする患者がいなくなった(以前は汚い病棟を見て入院をいやがる患者が多かった)ことが指摘された。すなわち、患者が軽症のうちに治療に取り組めるため、早期回復につながっているのであろうとのことである。また、病棟で使用される睡眠薬をはじめとする薬物の処方料が減少していることが確かめられた。患者の状態が好転している客観的指標が得られたと言えよう。
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