本研究では、細胞を殺すことなく、細胞の内側に存在する細胞骨格を形成する蛋白質群の免疫検出を行う新規免疫測定技術の開発を目的としている。 直径200nmに先鋭化した原子間力顕微鏡(AFM)の探針、ナノニードルの表面に、抗アクチン抗体を固定化し、細胞にダメージを与えずに細胞内部への挿入を試みた。 細胞は新生児由来正常ヒトメラノサイトNHEM-Neoを用いた。AFMと倒立型顕微鏡を37℃、5%CO_2の恒温フード内に設置し、上記のナノニードルをAFMによる操作によって、メラノサイトに挿入、抜去し、その力学応答をフォースカーブとして観察した。コントロール実験として、単量体アクチンで抗体をブロッキングしたナノニードルで力学応答を観察した。また、CytochalasinDの添加によりアクチンフィラメントを脱重合したメラノサイトに対しての力学応答を観察した。その結果、抗アクチン抗体がフリーの状態で固定されているニードルを用いた場合、細胞からのニードルの抜去には約4nNの力が必要であった。これに対し、ニードル表面の抗体がブロッキングされている場合、またアクチンが脱重合されている細胞では、この様な力は観察されなかった。以上のことから、本実験により、ニードル表面の抗体と細胞内のアクチンフィラメントの相互作用を破壊する力が観察できたと推察される。 現在、アクチンフィラメント含量と、相互作用破壊力の大きさの相関関係について調査している。これまでの結果より、生きた単一細胞内の細胞骨格タンパク質を力学的に検出し、細胞の状態を判別可能であることが示唆された。
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