既存の細胞内蛋白質解析技術として免疫染色、GFP融合蛋白質の発現、フローサイトメトリーなどの手法が存在する。これらの手法は、生きたまま細胞を解析出来ない、あるいは細胞内部の蛋白質を解析出来ないという問題点がある。本研究では細胞内の骨格蛋白質を力学的に検出する手法を開発した。骨格蛋白質としてはアクチンを標的蛋白質として、抗アクチン抗体を固定化したナノ針を細胞に挿入・抜去する際の抗原抗体相互作用の破壊に要した力(unbinding force)を観察することで生細胞内のアクチン繊維の構造や分布を力学的に評価した。 AFM探針を集束イオンビームにより加工し、直径約200nm、長さ約10μmのナノ針を作製した。抗アクチン抗体は化学修飾によりナノ針表面に固定化し、細胞に抗体固定化ナノ針を挿入・抜去し、フォースカーブから力学応答を観察した。繊維状構造の解析にはメラノサイトを用い、脱重合剤サイトカラシンDを用い細胞内の繊維状アクチンの脱重合過程を解析した。分布解析においてはGFP融合βアクチンを発現させた平滑筋細胞に対し、ストレスファイバーの分布を蛍光観察した後、500nm間隔で19×19点でフォースカーブ解析を行った。 繊維状構造の解析では、脱重合状態を蛍光標識ファロイジンによる蛍光染色とunbinding force測定によって評価した。両者とも経時的に減少する様子が観察され、繊維状構造が破壊された場合はunbinding forceがゼロになることが分かった。これによりunbinding forceの大きさによって生細胞内の構造体として機能する繊維状アクチンを特異的に検出する方法として有用であることが示された。また、分布解析においては、ストレスファイバーの位置と1nN以上の大きいunbinding forceが検出された位置に相関性が見られ、生きた細胞内部の骨格蛋白質の分布を観察出来ることが示唆された。
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