研究課題
位相共役波とは、ある音源から発した音波をアレイで受信し、その受信信号を時間軸上で反転させた信号を、逆にアレイから発信すると、元の音源の位置「(=焦点)に音波が収束するという現象である。この位相共役波による収束は、従来のビームフォーミングによる"方位の絞り"とは異なり、反射波や屈折波などのマルチパス波が集まって、点に対して音波が収束するため、非常に収速度が高く、水中音響技術への数多くの応用例が考えられる。そのうち、最も有用と思われるアプリケーションとして、水平方向の長距離音響通信の研究を行っている。昨年度は、実海域試験に使用する低周波音源、受波器から成る送受信装置等を2式製作した。本年度は、まず、送受信装置を水中で上下方向に移動させるための水中ウィンチを製作した。そして、この水中ウィンチによって、アレイ側の送受信装置を上下させながら送受信を行い、仮想アレイとみなす方法で実海域試験を行った。しかし、焦点側の音源が浸水するという不具合が発生し、音波を発信することが出来なかったため、目的であった双方向の"アクティブ"な位相共役の実験を行うことが出来なかった。(使用した低周波音源は、円筒状の表面にトランスデューサが配置され、内部を高圧空気で均圧することで、小型化・高出力・広帯域化を狙ったタイプのものである。今回の実験では、この高圧空気室に海水が浸水したため、音源が使用不可能になった。)そこで、"焦点側"から送信し"アレイ側"で受信のみをする片方向の伝搬実験を行い、"パッシブ"な位相共役処理によって、マルチパス波が消え、明瞭なパルスを受信することが出来た。他に理論的な検討として、AUVのような移動体との通信を想定して、焦点側が移動するときの、ドップラー効果の影響評価を行い、現在想定している程度の低速であれば、通信路を確保することは可能であることを示した。また、アクティブ位相共役通信に加えて、パッシブな位相共役通信の手法に関しても検討を行った。
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