液体の放射線分解反応初期過程の解明を目的として、超高時間分解能パルスラジオリシス装置の開発と応用を進めた。測定手法はポンプ&プローブ方式に基づいており、レーザーフォトカソードRF電子銃を含む18MeVライナックより得られる極短電子パルス(ポンプ)で瞬間的に現象を開始し、これと高精度同期されたTi:Sapphireフェムト秒レーザ(プローブ)の吸収分光測定からダイナミクスを測定する。いくつか抱えていた問題を改善し、サブ5psの時間分解能を達成した。類似の装置が世界各国でも進められているが、本システムはこれらに先立つ性能を達成し、応用段階にも入った。応用では、まず純水の放射線分解反応で生成する水和電子のピコ秒〜ナノ秒領域の挙動を測定した。特に、照射後1psにおける水和電子収量(イニシャルG値)が、従来の報告では4.0〜4.8/100eVと様々であることからよくわかっているとは言えず、新システムによる実験とモンテカルロシミュレーションの併用で調べた。その結果G=4.15が妥当であるという結論を得た。次に、水は極性溶媒の一種にすぎないことから、水と構造のよく似た各種アルコールを用い、誘電率や粘度等の異なる溶媒中での溶媒和電子の振る舞いを調べた。メタノール〜デカノール(1価アルコール)では、側鎖が長いほど初期収量が減少し、誘電率低下に伴うジェミネート再結合の増大を反映していると考えられた。次に、OH基濃度の高い2価のアルコール(エチレングリコール等)では、近赤外領域における光吸収(溶媒和前電子の吸収帯)が極端に少なく、イオン化で生成したフリー電子が、OH基近傍において高い確率で直接溶媒和に至ることを明らかにした。これは、従来考えられてきた溶媒和過程の描像(フリー電子が、溶媒和前電子(pre-solvated electron)を経て溶媒和に至る)と大きく異なるものであった。
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