本研究では、高次クロマチンを鋳型とした遺伝子発現調節機構を解明することを目的として研究を進めている。モデル材料として核小体に局在するリボソームRNA(rRNA)遺伝子領域に着目した。ヒトの細胞では約400コピーからなるrRNA遺伝子が核小体の中に集合し、rRNAの合成と修飾・切断が協調的に行われることによつてリボソームの合成が行われる。増殖細胞では約400コピーのrRNA遺伝子のおよそ半分が活性化状態、半分が不活性化状態のクロマチン構造を形成していると考えられるが、rRNA遺伝子領域のクロマチン構造やその発現調節の分子メカニズムはまったくわかつていない。クロマチン構造変換因子である核小体ヒストンシャペロン、B23タンパク質に着目し、その機能の解明を目指している。B23はヒストンと直接相互作用する因子であるとともに、細胞内ではRNAとも相互作用することが明らかになっている。B23のモデルクロマチン構造変換活性はRNAによって著しく促進される。これらのことから、B23がクロマチン構造変換因子として機能する際、RNAと複合体を形成することが重要であるものと考えられる。そこで、B23と細胞内で相互作用するRNAの同定を進めた。その結果、28SrRNAや5.8SrRNAといった成熟したリボソームRNAや、いくつかの低分子のRNAが同定された。また、B23を核抽出液から精製すると、精製産物の中に、ある小分子のRNAが含まれていた。現在、これらのRNAを試験管内で合成し、B23との相互作用および、B23のクロマチン構造変換活性に与える影響を検討している。RNA-タンパク質複合体としてクロマチン構造の制御に関わる因子はこれまで報告されておらず、これまで報告されているクロマチン構造変換のメカニズムとはまったく異なるクロマチン制御機構が存在するものと考えられる。
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