研究概要 |
横紋筋である心筋および骨格筋の収縮はカルシウムイオンのトロポニン(Tn)への結合による「細い繊維」の構造変化により開始されるが、その作用機構の詳細は明らかでない。我々はこれまでの研究でヒト心筋Tnの調節機能を有するコアドメイン(Tn46kおよびTn52k)の結晶構造を明らかにした(Takeda.S et al. Nature,2003)。結晶構造からトロポニンがTmの柔軟性を変化させ「細い繊維」の状態を制御するとの可能性が示唆され、この仮説を検証するためにより大きな複合体であるTn/Tm複合体の結晶構造を解明することが重要となった。本研究ではTn/Tm複合体の生理的なカルシウム濃度の異なる2つの状態でのX線結晶構造解析を行い、分子モデルの構築とTn/Tmによる収縮制御機構の構造的基礎を明らかにすることを目標とする。既にTn/Tm複合体の結晶化に取り組み、4.5A分解能程度の回折データを得ることに成功している。しかし、分解能、同型性、X線損傷等の問題により実験的に位相を決めることが出来ていない。本年度はこのTn/Tm結晶の結晶性の改良に取り組むと共に、Tnの結合部位を含むTm断片の高分解能での構造決定を行い、Tn/Tm複合体構造解析の足がかりを築くことを目標とした。その結果、Tm断片を用いて3Å分解能の回折能を有する新規の結晶を作成する事に成功し、現在構造解析を進行中である。また、TnCに直接結合するカルシウム感受性変調薬物を用いてTnCとその薬物結合を明らかにすると共に、その薬物を用いてのTn/Tm結晶の改善を検討している。
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