バラ科などの自家不和合性反応はS遺伝子座にコードされる雌ずい側因子(S-RNase)と花粉側因子(SFB)との特異的相互作用が中心的役割を果たしていると考えられているが、同時に、S遺伝子座の因子だけでは自家不和合性反応を完結するのは不十分であり、様々な補助因子(非S因子)が必要なことも明らかにされている。しかしながら、非S因子についての知見は極めて限られている。今年度は、非S因子の同定・解析のためのアプローチとして、S-RNaseに結合する雌ずいタンパク質の解析を行った。S-RNase型の自家不和合性を示すナス科植物では、TTS、PELP、120Kといった雌ずいのアラビノガラクタンタンパク質がS-RNaseに結合する性質を持つことから、非S因子の一種として自家不和合性に関与している可能性が指摘されている。バラ科果樹であるナシ・リンゴにおいてもナス科のTTS類似のアラビノガラクタンタンパク質が雌ずいに存在することを明らかにし、これらをPpPRPおよびMdPRPと命名した。また、プルダウンアッセイにより、PpPRPおよびMdPRPがS-RNaseに結合することを見出した。これらのアラビノガラクタンタンパク質はバラ科の自家不和合性における非S因子である可能性があり、このことからバラ科とナス科は系統関係は遠縁であるものの、S因子だけでなく、非S因子にも共通点が見られる可能性が示唆された。
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