本研究では、フェロモン感知器官と考えられている鋤鼻器官で受容される物質の探索のためのアッセイ系の確立を行った。BALB/c成熟オスを2日間飼育した床敷に、同系統の10週齢メスマウスを2時間さらすと、鋤鼻器官のGαo層神経においてc-fos遺伝子発現誘導が認められた。オスの鋤鼻器官においてはc-fosの発現は誘導されなかったので、性特異的な反応を見ていることが示唆された。次に、接触と非接触での実験をおこなったところ、接触したときのみc-fosの誘導がみられたので、活性物質は不揮発性の物質であることが予想された。そこで、活性物質の由来を探索したところ、予想に反して、尿ではなくて、眼か外涙腺と顎下線に活性が見られた。そこで涙腺から三段階のHPLCカラムを使って活性物質を精製し、N末端アミノ酸配列と質量分析で構造を解析したところ、第17番染色体にコードされている分泌タンパク質であることがわかった。このタンパク質は、N末端シグナル配列が切断されたのち、数個のアミノ酸が削られて成熟ペプチドになって体外に分泌される。この遺伝子の近辺に相同遺伝子が現在までに30個ほどみつかった。一方、顎下線に見られた活性の精製を、やはり三段階HPLCカラムを使って行って現在目的物質を絞り込んでいる。このように、性特異的な物質が外分泌腺から分泌されていることがわかったので、今後、アッセイ系を改良して、鋤鼻器官で認識される物質群のさらなる同定を目指し、それらが引き起こす生理的影響を明らかにしていく。
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