性成熟直後の生後3ヶ月齢から生後30ヶ月齢までのB6雄マウスを用いて経時的に、行動学的解析を行った。テストバッテリーとして、オープンフィールド試験、新奇物接近回避試験、明暗往来試験、高架式十字迷路試験、恐怖条件づけ試験を行った。その結果、生後12ヶ月齢から15ヶ月齢をピークとして、新規場面における情動性(我々で言うところの判断力に近いものと推測している)、また学習・認知性が向上していくと考えられ、同時に、生後24ヶ月齢以降に、上述の情動性および学習・認知性が低下していくと判断できた。すなわち、性成熟以降においても、脳機能は成長していくと考えられ、脳機能は発生・発達の後に成熟期・成熟維持期(とも言うべき時期)を経て老化期を迎えると推測している。神経細胞の細胞内骨格系タンパクに焦点をあわせて、生化学的解析を行ったところ、タウタンパクのリン酸化パターンの加齢にともない大きく変動していることが明らかとなり、同時に微小管タンパクの動態についても、その界面活性剤への溶解性に大きな加齢変化が生じていることが示された。すなわちタウタンパクのリン酸化変動をともなった微小管タンパク安定化が生じていることが強く示唆された。またグリア系細胞の発達も性成熟以降に進行していくことが明らかになった。 また脳における神経細胞核内クロマチンの活性度を検討するために、ヒストンの修飾状態を脳スライス切片上で観察する手法を開発した。その結果、生後12ヶ月齢から15ヶ月齢のマウスにおいて、非活性型のクロマチンに比べて活性型のクロマチンの度合いが高い神経細胞は、特に大脳皮質、海馬に多く、そうした活性型クロマチン構造を持った神経細胞は老齢期には現象していることも明らかになった。今後、脳機能としての「興奮・抑制」のバランスに焦点を合わせた解析についても検討を重ねる必要があると考えられた。
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