研究課題
ヒト・βグロビン遺伝子座は4種類のβ様グロビン遺伝子(ε、Gγ、Aγ、β)で構成され、これらは細胞、および発生時期特異的に発現する。これらの遺伝子の上流には遺伝子座制御領域(locus control region;LCR)が存在し、遺伝子座内の全ての遺伝子の制御に必須である事が知られている。LCR内には上流から5つのDNase I超感受性領域(hyper-sensitive sites ; HS5〜1)が存在する。私は以前、ヒトHS5がインシュレーター活性を持つことをYACトランスジェニツクマウスを用いて証明した。しかしながら同実験において、LCRの下流に野性型HS5 DNA断片や、インシュレーター活性を持たない変異型HS5(HS5/dCTCF)DNA断片を挿入した際、初期造血期でのε遺伝子の発現が抑制された。すなわち、LCRの下流にHS5DNA断片を挿入することにより、インシュレーター活性非依存的にε遺伝子の発現が抑制されることが示唆された。この表現型の原因として、(1)HS5 DNA断片がε遺伝子特異的リプレッサーである可能性、(2)HS5 DNA断片の挿入により、εプロモーターに作用するエンハンサーの機能を阻害した可能性、そして、(3)εプロモーターとLCRエンハンサーとの間の距離が大きくなったため、プロモーターの活性化が妨げられた可能性、が考えられた。そこで本年度は、これらの仮説のうち(1)と(2)について、培養細胞を用いて検証を行った。その結果、(1)HS5 DNA断片にはεプロモーターに対するリプレッサー活性は見出せなかった。しかしながら、(2)HS5 DNA断片を挿入した領域に、初期造血期での赤血球細胞に特異的なエンハンサーを見出した。このため、HS5 DNA断片の挿入により、同エンハンサーの機能を阻害した可能性が考えられた。そこでこの仮説について培養細胞を用いてさらに検証したが、少なくとも同実験系においては、DNA断片の挿入によるエンハンサー活性の低下は見られなかった。
すべて 2005
すべて 雑誌論文 (1件)
Molecular and Cellular Biology 25(9)
ページ: 3443-3451