本研究は、申請者がこれまでに確立してきた蛍光プローブ設計法である光誘起電子移動(PeT)過程に基づき、長波長光で機能するなど様々な特長を有する光分解性保護基を論理的に設計することを目的とするものである。具体的には電子供与部位と受容部位を分子内に共存させ、ここに光照射することで電荷分離状態を生じ、その結果選択的な結合開裂反応が誘起されるような光分解性保護基を高効率に設計することを第一の目標とした。初年度である本年は、光分解性保護基設計に必須となる分子内光誘起電子移動反応のバラエティを広げる研究を行い、従来確立していた励起蛍光団が電子受容体として働くPeT過程(a-PeT)とは逆方向の電子移動(d-PeT)が起こりうることを見出し、これをJ.Am.Chem.Soc.(Ueno et al.)に報告した。本知見は、d-PeTによる蛍光団由来の蛍光強度の精密制御を可能とするものであり、新たな蛍光プローブ設計の可能性を拡大させたばかりでなく、汎用される電解保護基の基本構造であるニトロフェニル基を電子受容部位とする、光分解性保護基の論理的設計を可能とする画期的なものである。そこで次に電子供与部として長波長励起が可能な蛍光団であるフルオレセイン類に着目し、その電子供与体としての分子構造の変換を行うことを目的とした研究を行い、19世紀に初めて合成されて以来全く試みられていなかった骨格変換に成功し、新規フルオレセイン誘導体(TokyoGreen類)の創製にも成功し、これをJ.Am.Chem.Soc.(Urano et al.)に報告した。これら両知見を併せ、フルオレセイン類を光捕集団かつ電子供与部位、様々なニトロベンジル基を電子受容部とする光解除性保護基の候補化合物を種々合成し、その特性を精査した。その結果、470nm近辺の長波長光照射によってuncage反応が起きることが確認され、本研究の第一の目的を達成することに成功した。
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