研究概要 |
グラム陽性のブドウ球菌とグラム陰性の大腸菌でDNA複製の開始調節機構に普遍的側面と種特異的側面があることが、細菌ゲノムの遺伝子組成の比較から明らかになっている。ブドウ球菌の複製開始の調節機構の解明を目的とし、その調節に重要な役割を担うと予想される複製開始因子DnaA蛋白の生化学的解析に着手した。 精製したブドウ球菌DnaA蛋白は、ATP、ADPに対し高い親和性を示し、また弱いATPase活性を有していた。またブドウ球菌の複製開始領域oriCをATP依存に開裂し、その際ATPの水解は不要であった。従って、ブドウ球菌においてもDnaA蛋白のヌクレオチド結合型の制御によって複製開始が調節されることが示唆された。 大腸菌DnaAのATPase活性に必要なR334残基に相当する、黄色ブドウ球菌DnaAのR318残基のアラニン置換変異体を作出した。精製したDnaA R318Aは、ATP結合活性は有するものの、そのATPase活性を失っていた。このR318Aは、ブドウ球菌oriCの開裂活性を失っていた。従って、R318残基は、黄色ブドウ球菌DnaAのATPase活性に必要であるとともに、ATP結合に依存したDnaAの活性型への構造変化、あるいはその維持に必要な残基であることが示唆された。現在、他の観点から、これを裏付ける実験を遂行している。 ブドウ球菌のDNA複製に関与する温度感受性変異株の分離と解析を行った。その結果、dnaA遺伝子、さらにグラム陽性菌に特有なdnaB, dnaI遺伝子の変異株を新規に得た。DNA合成の基質前駆体の取り込み実験、フローサイトメトリー法を用いた解析から、これらの遺伝子が複製開始とその同時開始性に必要であることが分かった。従ってDnaA, DnaBおよびDnaI蛋白がともに黄色ブドウ球菌の染色体複製の開始、並びにその同時性に必要であることが示唆された。
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