研究課題
これまでに、エボラウイルスなどの新興感染症は世界の限られた地域でしか認められていないが、昨今の急激な国際化による人の移動および動植物の輸出入に伴い、それらの疾病の原因病原体が他国に拡散する可能性が高まっている。さらに近年、エボラウイルスのような致死率の高い出血熱ウイルスがバイオテロリズムの手段として使用される危険性が高まっており、対策を講じる必要がある。しかし、ウイルス性出血熱に対する効果的な医療手段はほとんどなく、予防・治療法を開発する事が急務となってきた。これまでに申請者は、エボラウイルスZaire株の表面糖蛋白質(GP)分子はウイルスの感染性を中和する抗体および増強する抗体の両方の標的である事を証明した。そこで、エボラウイルスの病原性の強さと感染増強抗体との関わりを調べるために、病原性の非常に強いZaireウイルスと病原性の比較的弱いRestonウイルスの間で、感染増強抗体誘導能を比較した。ZaireウイルスとRestonウイルスGPに対するマウスの抗血清をそれぞれ作成し、血清中の感染増強活性および中和活性を調べたところ、中和活性には殆ど差が無かったのに対して、感染増強活性はZaireウイルスの血清の方が優位に高かった。これは、感染増強抗体が結合できる抗原決定基の種類と数が両ウイルスの間で異なることを示している。また、この感染増強活性は主に血清中のIgG2a抗体によるものであることが示唆された。以上の成績より、エボラウイルスのGP分子そのものの感染増強抗体誘導能がウイルスの病原性と関連があることが示唆された。(注)実際のエボラウイルスを用いた実験は、Heinz Feldmann博士の協力でカナダの国立研究施設Canadian Science Centre for Human and Animal Healthで行った。
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