自己免疫疾患は多遺伝子疾患であるため、一つの遺伝子に注目するのではなく、複数の遺伝子による協調的な制御機構を解明することが必須である。最近我々は、免疫抑制受容体PD-1を欠損させたマウスが、マウスの遺伝背景により様々な種類の自己免疫疾患を発症することを見出した。そこで免疫制御に関与する分子を欠損させたマウスにPD-1欠損を導入することにより、各免疫制御分子の機能不全が自己免疫疾患発症に与える影響を増強し、効果的に解析できると予測した。 昨年度までに、抗体のFc部分に結合する抑制性受容体FcγRIIBとPD-1の二重欠損マウスを作成したところ、約30%のマウスが両側性の水腎症を発症することを見出した。今年度は、FcγRIIB・PD-1二重欠損マウスにおける血清免疫グロブリン値の変化、T・B細胞活性化の変化等を解析し、これまでのデータとあわせて論文報告した(研究発表-2)。 抑制性サイトカインであるIL-10を欠損させたマウスとPD-1欠損マウスを交配してIL-10・PD-1二重欠損マウスを、C57BL/6系統、及びBALB/c系統において作成した。これまでに他のグループからIL-10欠損マウスはコンベンショナル環境下においてのみ自己免疫性の腸炎を発症し、SPF環境下では自己免疫症状を示さないと報告されていたが、BALB/c-IL-10・PD-1二重欠損マウスはSPF環境下において激しい腸炎を発症し、15週齢までに全てが死亡した。腸内細菌に対する免疫寛容がPD-1欠損により破綻したために、腸内細菌に対して免疫応答が惹起され、SPF環境下でも腸炎が発症したものと考えられる。一方、C57BL/6-IL-10・PD-1二重欠損マウスは腸炎を発症しなかった。来年度は、腸内細菌に対する免疫応答を観察することにより、腸炎発症機序を詳細に検討する予定である。
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