本邦における肝癌死亡率に地域差があることは周知の事実だが、最近厚生労働省から発表された1975年当時の肝癌の地域分布をみると、過去に日本住血吸虫症(日住症)の蔓延が報告されている九州、広島及び東日本では唯一山梨付近に肝癌蔓延地域が存在した。これらの地域における過去の社会的背景としては、1921年以降の日住症に対する駆虫剤の静注使用が特記すべき点であり、こうした過去における背景とHCV感染との関与を明らかにするために、山梨・広島・福岡のHCV感染患者を対象として、日住症既往感染の有無でHCVの拡散時期に差があるか否かについて、年齢性別をマッチさせたcase-control studyを行った。分子進化学的手法により、日住症群のHCV拡散はコントロール群のHCV単独感染群より約20年早期に拡散し始めたと推定された。このことは、過去の日住症蔓延地域では日住症に対する治療がHCV拡散の最初のリスクファクターの一つと考えられ、こうした地域によるHCV拡散時期の違いが現在のC型肝癌の発生率の地域差を反映しているのではないかと推定された(文献)。 また、C型慢性肝炎に対するRibavirin単独療法が施行された症例のシリーズ検体を用いて、in vivoにおけるRibavirinのRNA mutagenとしての作用及びその遺伝子変異パターンを検討した。Ribavirin単独投与により、in vivoにおいてヌクレオチドアナログとして作用するだけでなく、RNA Mutagenとしても作用する可能性が示唆され学会発表を行った(平成16年日本肝臓学会総会発表)。こうしたウイルス遺伝子変異は、IFN+Ribavirin併用療法における治療効果に影響を及ぼす可能性が考えられ、現在IFN+Ribavirin併用例における遺伝子変異パターンを検討している。
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