原発性免疫不全症であるWiskott-Aldrich症候群(WAS)の原因遺伝子は主に細胞骨格系を司るWASPであり、WAS患者でWASP蛋白質発現は低下し、その発現量と臨床的予後が相関することは報告されているが、WASP蛋白質分解の分子機序は不明であり、本疾患の分子病態を理解する上で重要である。本研究代表者は、前年度の研究実績報告に加えて、T細胞受容体シグナル伝達系におけるWASP蛋白質分解が蛋白分解酵素calpainおよびubiquitin-proteasome系によって制御されること、WIPノックアウトマウス及びWAS患者T細胞を用いた実験結果から、WIPはWASP蛋白質の安定化に不可欠であることを発見した。臨床的にWAS患者に認められるWASPミスセンス変異の大部分がWIP結合領域に集中している分子基盤として、このWIPによるWASP蛋白質安定化の機構がこれらのWAS患者の分子病態の理解に重要であり、機能的にも細胞骨格系の制御に重要であることを証明した。これらの追加実験を加えることでさらに詳細な研究成果を得、この成果は再投稿済である。今後もWASP蛋白質活性化と分解を繋ぐ分子機序の研究を継続する予定である。 現在、上記の研究成果および、WASPとWIPノックアウトマウスの表現形の類似性から、常染色体遺伝性Type2-WASとしてのWIP欠損症のスクリーニングが国内検体を中心に進行中である。これまで可能性のある症例より4検体を入手し、WIP蛋白質発現および遺伝子変異を検索中である。 WIP欠損症のスクリーニングと病態解析の遂行には、ハーバード大学医学部小児科学・ボストン小児病院免疫学部門Raif S. Geha研究室との共同研究を継続している。
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