(研究成果の概略) 1.Neurosphere法で培養したL1CAM遺伝子異常を有する神経幹細胞(XLH-hNSPC)のin vitroにおける分化能評価を実施した結果、XLH-hNSPCの形成するneurosphereはフラスコ面への接着能に大きな障害を有し、また接着起点からのグリア様細胞の遊走に大きな障害を有することを明らかにした。さらに分化してくるグリア様細胞において、そのGFAP発現が低下していることを明らかにした。 2.前年度までに実施してきた遺伝子発現解析をさらに進めた結果、XLH-hNSPCではintegrin α5、β5の発現が有意に低下しており、さらにintegrin αV、αVβ5を介した細胞接着能の障害が認められた。また、正常神経幹細胞と比較してABCB1、tenascin-C、ErbB2の遺伝子発現が低下し、ErbB3の発現が上昇していることを明らかにした。 3.XLH-hNSPCの樹立に使用されたヒト胎児脳組織の組織学的特徴を検討した結果、神経前駆細胞の遊走に大きな障害は見られず、脳組織構造にも明らかな障害は見られなかった。 (考察、結論) XLH-hNSPCには正常L1CAM遺伝子の機能喪失に加え、neurosphere形成中の遺伝子発現、さらにグリア細胞への分化、成熟過程に異常が存在し、また分化後のグリア様細胞の遊走能にも障害があることが明らかになった。遺伝子発現解析から、その障害の分子メカニズムとして、integrinファミリーの機能障害に起因する接着性障害の関与が示唆された。
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