研究概要 |
2年間の研究期間の1年目である平成16年度ではまず、単塩基遺伝子多型(SNP)同定のための主要な解析装置である自動シークエンサーの導入とセットアップ、操作方法の最適化を行つた。それと同時に家族性前立腺癌の責任遺伝子として同定したMSR1遺伝子について日本人の家族性および非家族性前立腺癌および非前立腺癌患者において解析を行った。前立腺癌に特異的なSNPは同定されなかったが欧米で前立腺癌感受性遺伝子とされたSNPの頻度が日本人では異なっており、前立腺癌罹患率の人種差を説明する一つの要因であることが示された。また、やはり家族性前立腺癌の責任遺伝子の一つであるRNASEL遺伝子についても同様の検討を行ったがこちらでは有意な結果が得られなかった。これらの成果については現在投稿準備中である。 米国ジョンズホプキンス大学病院泌尿器科のWilliam B.Isaacs教授の研究室との共同研究で行ったKLF6遺伝子についてその解析結果を報告した(Narla G and Komiya A et al., Cancer Research:2005)。KLF6遺伝子はp53遺伝子を介さずにp21遺伝子を活性化することにより細胞増殖を抑制して癌抑制遺伝子として働くが、前立腺癌を始め複数の悪性腫瘍での遺伝子変異が報告されている。最も高頻度のSNPであるIVS1-27G>Aは、alternative splicingを引き起こすことにより2つのsplicing variantを生じこれらによりKLF6遺伝子の活性が低下し、続いてp21遺伝子の活性化を妨げることにより癌抑制遺伝子としての機能を失う。前立腺癌患者および非前立腺癌症例それぞれ1000例以上を対象とした症例対照研究を同時に行ったが、IVS1-27G>Aが家族性および非家族性の前立腺癌の発症リスクを実際に上昇させていた。
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