研究概要 |
AOP2の発現が種々の白内障誘導因子により変化するかどうかを検討した。培養ヒトSV-40不死化LEC(HLEC)に、デキサメサゾン、TGF-beta1,およびTNF-alfa, UV-Bを投与しAOP2の発現の変化を、定量RT-PCR法およびプロテインブロット法にて検討した。AOP2は、UV-B,デキサメサゾン、TNF-alfaにより発現が上昇したが、長期投与により発現が減少した。 AOP2ノックアウトマウスの水晶体では、明らかな白内障は見られないが、組織学的に観察すると、弓状帯での上皮細胞核が後嚢側へと移動しており水晶体線維への正常な分化の異常が観察される。また、ノックアウトマウス水晶体の器官培養においては、200μM H_2O_2の培養液中への添加により、白内障がコントロールのマウス水晶体に比べ早期に誘導される。さらに、AOP2ノックアウトマウス水晶体より培養したLEC(AOP2-KO-LEC)は、コントロールのLEC(C-LEC)より、H_2O_2投与によるアポトーシスがより多く誘導されており、このことは、AOP2の発現が抑制されているLECでは細胞のアポトーシスが惹起されることを示唆している。また、AOP2-KO-LECはC-LECに比べて細胞が伸長し、分化した線維細胞様の形態変化を示す。コントロールも含めてこれらのLECに細胞分化を誘導するTGF-β1を添加すると、さらにLECの線維芽細胞様変化が促進され、分化した水晶体線維で観察されるレントイド小体も多く出現する。また、AOP2-KO-LECにおいてはTGF-β1の活性が、コントロールに比べ有意が高く、活性酸素種(ROS)の産生上昇も見られている。よって、加齢にともなうAOP2の発現の減少は、過度の酸化ストレスおよびTGF-βの活性化を導き、白内障発症の一因となりうると推測される。このAOP2-KO-LECにおけるTGF-β1の活性上昇は、AOP2の細胞へのトランスフェクションによる過剰発現またはROSインヒビターのMnTBAP投与により抑制される。つまり、減少したAOP2を細胞に補ってやることにより、ROS産生が抑制され、さらにTGF-βの活性化も抑制する。よって、AOP2は白内障抑制因子として有用である可能性が示唆される。
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