1.油彩画における絵具の3次元形状データの保存に関する基礎的検討: 油彩画の形状取得は、非接触カメラ式形状計測装置VIVID700を用いたシステム構成により行われる。VIVID700による計測には、測定条件や形状特徴に起因した測定誤差が発生していると推測され、正確な形状保存のためには、誤差の特徴を特定する必要がある。油彩画家との議論を行い、最初から油彩画全体を計測の対象とするのは困難であるために、本研究では、描画の際に重要とされるオーバーハングと呼ばれる部分に注目することとし、実験試料の作成を行った。次に、作成した試料の同箇所について、VIVID700および3次元スキャナ(接触式)を用いて計測し、両者の結果を比較することによって、提案するシステムにおいて発生する測定誤差を解析した。その結果、オーバーハングの特定箇所に、VIVID700のレーザ照射座標と、測定試料の垂直方向座標との間に、相対的な誤差の増減が見られることが明らかとなった。 2.画像の幾何構造に基づいた注視点解析に関する基礎的検討: 油彩画の鑑賞を考える場合に、鑑賞者が、画像のどこに注目しているかという情報が重要である。そこで、画像には、その画像内容に固有の情報によって生じる注視点が存在すると考え、画像の幾何情報に基づいた鑑賞者の視線推移の導出を行った。本来は、油彩画を対象とすべきではあるが、基礎的検討として、ランドルト氏環を用いた実験を行った。具体的には、入力された画像の輝度分布から、その画像の輝度勾配ベクタ場を生成し、それに基づいて、色彩変化の連続性(各ベクトルの1次連結成分)と幾何構造の連続性(各ベクトルの2次連結成分)を導出した。本実験により、連結成分の始点あるいは終点が、ランドルト氏環の中央およびギャップの部分に対応するという結果が得られたことから、画像のベクタ場解析により、鑑賞者の興味推移に沿ったサッカードの推測が可能であることを明らかにした。
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