研究概要 |
本年度は,進化と学習の相互作用に関して,次のような人工生命手法に基づくモデル化と進化実験によって,重要な知見を得た. 1.遺伝子間の非線形な相互作用であるエピスタシスが進化の過程に及ぼす影響について明らかにするため,エピスタシスの強さを明示的に調節可能なKauffmanのNK適応度地形を量的形質が扱えるよう拡張し,さらに表現型可塑性の進化を導入して実験を行った.その結果,エピスタシスの存在によって生じる非明示的なコストにより,Baldwin効果は一般的な2段階とは異なる複雑な3つの段階から構成されることが明確になった.また,進化の各段階において学習の役割は大きく変移し,特に最終段階では,可塑性を利用した突然変異に対するロバスト性の進化が生じることを確認した. 2.申請者らがこれまで行ってきた,戦略の可塑性の進化を導入した繰り返し囚人のジレンマゲームにおける戦略の進化モデルにおける進化と学習の相互作用について研究を推し進めた.その結果,戦略の記憶長の長さの進化や学習時に用いる行列を進化させても,我々が提案するメタ・パブロフ[x00x]型戦略がBaldwin効果を経て強固な協調関係を築くことが判明した.また,学習プロセスに明示的なコストを導入すると,コストが大きい条件ほどBaldwin効果は生じにくいことが明らかになった. 3.近年,人間の学習や文化的行動などを含む,生物による環境条件の改変であるニッチ構築が進化の過程に与える影響が注目されている.そこで,進化と学習の相互作用を含む適応プロセス間相互作用への新たなアプローチとして,ニッチ構築を介した種間相互作用に関する人工生命モデルをKauffmanのNKCSモデルを拡張して構築した.その結果,ニッチ構築の影響の強さと各種がおかれる適応度地形の凸凹さによって,ニッチ構築がもたらす役割と系全体の振る舞いが大きく変化することがわかった.
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