研究概要 |
本年度は,人工生命手法に基づく次の進化実験と解析を行った. 1.前年度に続き,遺伝子間の非線形な相互作用であるエピスタシスが表現型可塑性進化に及ぼす影響について明らかにするため,エピスタシスの強さを調節可能な量的形質の表現型可塑性の進化モデルを用いて実験を行った[鈴木,有田 2006].その結果,エピスタシスと学習回数の制限によるコストが進化の異なる段階において生じ,一般には2段階からなるとされるBaldwin効果と呼ばれる現象が3段階で構成されることなどが判明した.また,パラメータ設定を変更した実験により,このような複雑な進化は学習によるメリットとコストのバランスに依存することも判明した. 2.行動規則の可塑性の進化がもたらす集団レベルの適応性について知見を得ること,可塑性を進化的に獲得する手法のマルチエージェント系への応用を目的として,役割分担が適応的となるハンター問題において,行動規則とその可塑性を決定する遺伝子を共有する追跡エージェント群が進化するモデルを構築した[老子,鈴木,有田 2005].実験の結果,可塑性による行動規則の多様化によって役割分担が動的に生じ,高い適応度を獲得する集団へ進化することが判明した. 3.生物による環境条件の改変であるニッチ構築が進化に与える影響が注目されている.学習は環境と個体との相互作用で生じるため,環境条件の変化は学習の進化に大きな影響を及ぼすと言える.そこで,進化,学習,ニッチ構築の相互作用を理解するための第一歩として,ニッチ構築を介した間接的な種間相互作用と適応度地形の凸凹さに関する進化モデル[Suzuki and Arita 2005],空間版囚人のジレンマゲームにおけるニッチ構築の局所性の影響にする進化モデル[Suzuki and Arita (in press)]等を構築し,ニッチ構築の進化に関する基本的性質の解析を行った.
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