研究概要 |
人間を外部から観測して,その内部状態を読み取ることができれば,人間の内部状態に応じた働きかけをする機械が実現できる.筋や腱などの運動器官に発生する深部感覚は,人間の内部状態を支配する要因のひとつである.身体運動をモーションキャプチャ装置により計測して,人体筋骨格モデルに写像することで,関節の角度,筋・腱・靭帯の長さやこれらの運動器官に発生する張力を計算する研究はこれまでも数多く行われてきた.しかしながら,これらの物理情報から体性感覚という主観的な量を推定する手法は明らかでなかった.本研究は,運動計測から深部感覚を読み取るために,筋の内部状態を確からしく推定することを目的としている.これを実現するためには,筋だけでなく,神経の内部状態を考慮しなければならないと考えた.なぜならば,身体運動情報に,神経系の内部情報が含まれており,逆に,身体運動情報は,筋紡錘やゴルジ腱器官などの運動感覚器官により検知され,神経系への入力になるからである. そこで本年度は,人の内部状態,特に深部感覚を推定するという問題を解決するために,神経系モデルを構築し,運動計測に基づいて神経系シミュレーションを実施するという新しい研究の方法を発見し,手法を開発した.すなわち,運動データをもとに,脊髄神経系の時空間情報パターンを推定し解析する実験を行った.神経活動パターンのピークや位相差に基づき,運動協調度などが計測でき,神経情報の観点からの人間の運動の評価指標となりうることも示した.これが運動学習支援に有用であることを示し,特許を出願した.これらの新技術は,実世界情報システムが人の振る舞いやしぐさを観察し,人がどう感じ,何をしようとしているかを推定して,それに合った応答をするための基盤となるものである.
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