研究概要 |
音声には,話者ごとに異なる特徴,すなわち個人性が含まれており,我々は音声を聞くことにより話者を識別することができる.これまでに様々な物理量と個人性知覚との関連が指摘されているが,個人性を表わすために必要十分な物理量のリストは解明されていない.個々の人間の音声においては様々な物理量が異なっているため,それら全てに関して個人性知覚に与える影響を調べ上げることは容易ではない. そこで,本研究では個人間の差異ではなく類似性に着目することによって,この問題を解決する.つまり,個人性が似ている2人の音声を分析し,2人の間で値が近い物理量を抽出すれば,個人性知覚に本質的な物理量が特定できる.逆に,この2人の間で値が大きく異なる物理量は,個人性知覚にとって本質的ではないといえる.本研究ではこの考えにもとづいて,個人性の類似度知覚の要因となる物理量を特定する. 初年度である本年度は音声データを収集し類似性判断の予備実験を行った.まず,研究代表者が個人性が似ていると判断する話者の音声(データセットA)を収録した.また,比較対象としてこれらの話者と同世代の話者の音声(データセットB)も収録した.データセットAとデータセットBから一定の区間を抽出して刺激音を作成し,被験者に類似性を判断させる予備実験を行った.その結果,声質が類似しているか否かの判断には個人差があり,個人性知覚のストラテジーにはいくつかのバリエーションがあることが示唆された.
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