本研究では、脳のようなスパースな神経スパイク系列を伝達媒体とするシステムにおける柔軟な情報伝達モデルの実現を目的として、カオスダイナミクスをスパイク時系列中のスパイク間隔のダイナミクスとして表現したChaotic-ISIを用いた情報伝達システムの構築とその性能解析を行っている。この目的のために、平成16年度は、次の課題について研究を行った。 課題1 Chaotic-ISI分離抽出アルゴリズムの設計と性能評価 課題2 分離抽出アルゴリズムの神経回路モデルによる実現 課題1では、スパイク系列中に既知の力学構造に従う部分系列が含まれるか否かを識別することにより、対象とするChaotic-ISIの分離抽出を実現した。また、多重化通信を行うためには、力学構造が異なるChaotic-ISIを複数用意する必要があり、そのためのカオス力学系の族として、シフト写像を用いたカオス写像族を構成した。構成した写像族について、力学構造の違いとChaotic-ISI抽出性能の関係を、数値シミュレーションを元に解析した。結果として、シフト写像の傾き係数が正の場合と負の場合で抽出性能の特性に差異があるとこ、および、傾き係数が約-2付近においてに通信誤りを最小化することを発見した。 課題2では、Chaotic-ISIの分離抽出アルゴリズムを同時性検出ニューロンのネットワークとして設計し、FPGAを用いた実装を行った。ニューラルネットワークの設計においては、Chaotic-ISIの初期間隔を複数区間に分割し、各区間から生成されるスパイク系列の検出回路を並列動作させる方式を採用し、実時間でのChaotic-ISI抽出を可能とした。設計した回路は、FPGA上に実装し動作検証を行った。FPGA上での実装においては、抽出するChaotic-ISIのカオス写像から抽出回路のVHDL記述の自動生成を行った。
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