まず、グリッド環境に適した進化型計算を設計するにあたり、考慮すべきグリッド環境の特徴を考察した。その結果、並列計算機やPCクラスタ等と比べグリッドは、(1)異なる機関のサーバを使うためのユーザ認証やデータの秘匿性などのセキュリティ、(2)アーキテクチャやOSなどが異なるサーバの混在や利用可能なコンパイラやインタプリタなどが異なることなどの異種性、(3)利用可能なサーバの動的な変化などによる不確実性、(4)処理速度や主記憶容量などの異なるサーバの混在や通信回線の速度や帯域などの異なるネットワークの混在による比較的大きな通信遅延および通信時間のばらつきによる非同期性、を考慮しなければならず、また、グリッドの高いスケーラビリティによる膨大な計算資源を活用するためには、大規模な並列実行可能性が必要であることを述べた。次に、これらへの対処法について考察し、(1)〜(3)に関しては、OSやミドルウェアによる対処が可能である一方、(4)の非同期性および大規模な並列実行可能性に関しては、進化型計算を設計する側での工夫が必要であることを述べた。そして、これらの工夫を考慮し、グリッド環境に適した進化型計算とは、世代交代が局所化されている、通信量が小さく通信頻度が少ない、最適化性能に優れる、の条件を満たすものであるとの結論を得た。その一例として、進化型計算のひとつであるGSAを「特定領域研究Cゲノム情報科学 ゲノム情報科学高速化委員会 グリッド環境構築ワーキンググループ」により構築され、実際に稼動しているグリッド環境であるOBIGrid上に実装し、仮想的なサーバ数で数百台規模の並列計算を行い、計算時間の短縮効果を確認した。また、異なる計算機の混在する環境での最適化問題への応用を行った。現在、さらに大きな並列数の実現に向け、並列性により短縮の可能な計算コストの理論的な解析を進めている。
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