以下の項目の実施をもって、交付申請書における平成18年度の研究計画を完了した。 (1)感性音響のマルチ・チャンネル超広帯域録音:先行研究により、固有の超広帯域感性音響の所在が確認されているインドネシア共和国バリ州に赴き、自然環境音や伝統楽器音等、複数種の感性音響について、マルチ・チャンネル超広帯域ディジタル録音を行った。 (2)マルチ・チャンネル超広帯域録音物の音響構造の分析:(1)により得られた超広帯域録音物の音響解析を行い、その物理構造上の特徴を抽出した。その結果、収録した超広帯域録音物が、可聴域上限である20kHzを大きく上回り、150kHzにまで及ぶ周波数パワースペクトル分布と、ミクロな時間領域におけるゆらぎ構造をもつことが明らかになった。 (3)マルチ・チャンネル超広帯域感性音響試料の開発:(2)の解析結果に基づいて、人と音との親和性・快適性の向上効果をもつ物理条件を具えた録音物の候補を選択し、100kHz超の良好な特性を有する高忠実の超広帯域編集システムを用いて特徴的な信号構造をもつマルチ・チャンネル超広帯域音響試料を開発した。 (4)超広帯域音響情報のマルチ・チャンネル呈示の効果にする分析検討:開発したマルチ・チャンネル超広帯域感性音響試料と、そこから超高周波成分を除いた音試料とについて、基幹脳神経回路の活性化と高い相関の見出されている生理的・心理的指標を用いた比較実験を行い、音環境と人間の心身との親和性評価を行った。その結果、超高周波成分が含まれている音の呈示下では、超高周波成分を除いた音の呈示下に較べて、ストレスフリーの指標である脳波α波が統計的有意に増大すること、環境の快適性が全般的に高まることを統計的有意に見出した。また、最適音量調整法の応用により、空間に再生する超広帯域感性音響の音量を効果的に調整する手法を開発した。 (5)研究の総括:上記により得られた計測・評価結果に基づき、脳基幹部神経回路の活性化(生理的効果)や、快適性の向上(心理的効果)を導く感性音響の物理構造を明らかにした。また、超広帯域感性音響試料の効果的な呈示条件についての知見を得た。
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