研究概要 |
まず,視覚刺激の高速逐次呈示による三次元物体判別課題を基に,視覚的短期記憶の「記憶容量」について,定量的な解析を行った。具体的には,被験者に対して有効視野内に1〜5個の三次元基本図形パターンを呈示し,マスキング後に呈示される基本図形が,マスキング前の呈示物体群の中に含まれていたか否かを,正確かつできるだけ速く回答するように教示し,正答率および回答時間を測定した。その際,マスキング後に呈示した図形の視点は,マスキング前よりも0度もしくは60度奥行き方向に回転させた。実験結果として,呈示図形数の増加に伴い,回答時間は増加し,正答率は減少した。しかしながら,その傾向は一定ではなく,図形数が3個を境に分かれることが示唆された。次に,観察者の視点によって変化しない対象物中心座標系で記述される表現を考え,物体を構成する基本立体図形を用いた視覚的短期記憶の数理モデルによって,心理物理実験結果を説明することを試みた。まだ,上記の実験結果をシミュレートするには至っていないが,過去の心理物理実験結果と,数理モデルによる数値シミュレーション結果とを比較したとき,モデルが認識に使用できる図形数を3個に制限した場合が,最もよく実験結果を再現できていた。我々の身の回りにある物体は,2〜3個程度の基本立体図形を用いることで,観察者の視点に依存しない認識が十分可能な表現が得られることが知られている。このことからも,ここまで得られた視覚的短期記憶容量の上限に関する結果は妥当であると言える。
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