研究概要 |
本年度は、多変量時系列データをもとに、変量間の因果性を探るための統計的方法を二種提案し、その理論的性質および現実のデータに適用して有効性を実証した。さらにその内容を学術論文にまとめて投稿し、改訂を経てBernoulli,Biometrikaという専門誌に発表した。 前者では、クロスバリデーション法というモデル選択のための基準を本問題に適応するように改良したあらたな基準を提案した。そして、データ数が多い時には、変量間の因果関係を正しく定めることが出来ることを理論的に証明した。陰関数定理を利用して陽に表現できない関数の微分値を表現した点が本証明の最も重要なところである。さらに、香港のある病院への入院患者数と大気汚染度を示す6種の数値データ(NO2,SO2,微分子、オゾン、湿度、気温)の日次データに提案した手法を応用し実証分析を行った。その結果、No2とオゾンが健康に悪い影響を長期的に及ぼしていることを示した。 後者では、前者と同じ目的で検定統計量を提案した。つまり、多変量間の因果関係を示す検定問題を設定し、データから解を探る統計量を提案した。前者のモデル選択基準では、因果関係を有か無で示すのに対し、後者では有意水準を設定して有意水準を越えるか否かで有無を決する。つまり後者では有無は有意水準に依存して決まるので、前者に比べて状況に応じた分析を行い易くなるという利点を持つ。本論文では、次に検定統計量の漸近正規性を証明した。ここでも、前者で利用した陰関数定理を使った。そして本統計量を主要6通貨(円、米ドル、ユーロ、ポンド、カナダドル、オーストラリアドル)による金価格の日次データに適用し、通貨間の価値変動の相互関係を分析した。ユーロと米ドルには因果関係は認められないことが本手法によりあきらかになったが、ユーロが米ドルに対するもう一つの世界通貨として認められてきていることを示している。
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