脳内に貯蔵された記憶の再生(表出)の脳機構には依然として未解明の部分が多く、記憶再生を媒介する神経回路網の同定やそれに介在する分子・細胞機構の解明が必要である。先行研究から、マウスの味覚嫌悪学習における再固定化された記憶の再生にはノルアドレナリン神経伝達が促進的役割を担うことが示唆された。そこで本研究では、マウスにおける味覚嫌悪学習を実験モデル系として、味覚嫌悪記憶の再生に対するノルアドレナリン性神経伝達の機能を解明するために、ノルアドレナリン性神経投射の起始核や投射先である扁桃体内の受容体を同定することを目的とした。味覚嫌悪学習の再固定化された記憶の再生テストの直前にノルアドレナリン再吸収阻害剤やアドレナリン受容体のα1およびβサブタイプの作動薬をそれぞれ扁桃体に投与すると、再生障害を示すチロシン水酸化酵素遺伝子ヘテロ欠損マウスや野生型マウスでの味覚嫌悪記憶の再生が改善ならびに促進された。橋青斑核ニューロンは、再固定化された味覚嫌悪学習の記憶再生時にFosタンパク免疫シグナル陽性となることから、同部位のノルアドレナリン性ニューロンが記憶再生時に活性化されることが判った。野生型マウスにおいて、再固定化された記憶の再生テスト時に青斑核にα2アドレナリン受容体作動薬を投与して青斑核ニューロン活動を抑制すると、記憶再生までの潜時が遅延した。以上のことから、青斑核から扁桃体へのノルアドレナリン神経投射は、扁桃体内でα1およびβアドレナリン受容体を介して作用することによって味覚嫌悪学習における再固定化された記憶の再生を促進することが示唆された。以上の成果は、第28回日本神経科学学会大会ならびに日本味と匂学会第39回大会において発表し、成果論文を国際学術誌に投稿中である。
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