哺乳類の大脳皮質は生後の経験に依存して発達し、その限られた形成期(臨界期)に極めて柔軟になる。我々は抑制性伝達が視覚野臨界期を制御することを示してきた。暗室飼育によって視覚経験を受けていない正常マウスは臨界期が遅れるが、GABA_A受容体の選択的な作働薬を短期間注入すると、暗室下でも臨界期を早めることができた。このように、視覚入力に依存しない持続的な抑制は臨界期発現の引き金となる。 持続性抑制に関与する様々な分子群の臨界期に伴う変化をウェスタンブロットで解析したところ、細胞外GABAを細胞内に取り込むGABAトランスポーター(GAT-1)が臨界期前で過剰に作られていた。しかしながら、暗室下で強制的に臨界期を終らせた視覚野ではGAT-1が有意に減少していた。GAT-1欠損マウスを電気生理学的に調べたところ、臨界期が早まっていた。正常臨界期以前で既に強い眼優位可塑性が出現していたが、その可塑性は次第に失われ、正常臨界期では検出できなかった。さらに、GABA合成酵素のシナプス型を欠損したマウスは可塑性を示さないが、そのマウスにGAT-1の阻害剤を注入すると可塑性を回復できる結果も得ている。以上の結果は、GAT-1を介した細胞外GABAの取り込みは発達や経験に依存して減少すること、そして、このGAT-1を介した持続性抑制の制御は臨界期の発現時期を決定することを示唆している。 現在、暗室下においてもGAT-1欠損マウスの臨界期が早まるかを調べている。また、発達や経験に依存してGAT-1の細胞内分布も変化するかを追究している。
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