網膜神経核細胞と視蓋深層の神経細胞でGFPを発現するBrn3a-hsp70:GFP系統を用いて、私は、視蓋から延髄へ投射する視蓋延髄路が後脳で分節ごとに背側へ枝分かれし、運動中枢である網様体脊髄路神経細胞の腹側樹状突起とシナプスと思われる数多くの接触点をもつことを見出した。そこで、発生過程においてどのように発達するのかを調べたところ、視蓋延髄路は受精後約40時間から伸長し始め、約50時間までには網様体脊髄路神経の一つであるMauthner細胞に到達し、受精後約60時間で背側へ分枝し始め、約70時間までには発達した分枝が観察された。 次に、GFPを発現する神経細胞が視覚運動変換においてどのような役割を果たしているのか、免疫組織化学的手法により調べた。GFPを発現しているほとんどの神経細胞が、抗GAD65/67抗体と抗ChAT抗体による染色で陰性であり、抗Glutamate抗体で陽性であった。この結果から、Brn3a-hsp70:GFP系統は、対側視蓋へ興奮性に入力する視神経と、視蓋から同側性に下行し網様体脊髄路神経へ興奮性に投射する視蓋延髄路で主にGFPを発現しており、視覚刺激に向かっていく定位行動に関わる神経回路が可視化されていることが明らかとなった。 さらに、視蓋がどのように網様体脊髄路神経へ運動指令を送っているのかを知るため、視蓋から後脳への投射パターンを調べた。そのために、Brn3aプロモーター下で効率的に単一視蓋神経細胞を標識する実験系を確立し、各神経細胞の視蓋における細胞体の位置と軸索の投射先との関係をマップしたところ、新たな投射パターンが存在することが明らかとなった。この結果は、視蓋深層から後脳への投射が、網膜視蓋投射とは全く異なるパターンをもっており、視蓋表層から深層間で行われる、視覚入力から運動出力への情報コード様式の変化を示唆していると考える。
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