これまでに私は、網膜神経核細胞と視蓋深層の神経細胞で主に発現するbrn3a遺伝子のプロモーター制御下で、Cre-loxPとGal4VP16-UASシステムを組み合わせ、効率的に単一視蓋神経細胞を標識する実験系を確立した。この実験系を用いて、視蓋における神経細胞の細胞体の位置と、後脳における軸索の最終投射先をマップしたところ、2次元的分布を示す投射パターンが存在することを示した。本年度は、さらに統計学的解析を行ったところ、後脳分節r2とr6へ投射する神経細胞の分布が、視蓋前後軸に沿って有意に異なることを明らかにした。視蓋後部領域を設定し、後部と非後部の各領域間でr2へ投射する神経細胞の出現頻度を比較したところ、後部視蓋領域で有意に高いことが示された。次に、r2へ投射する神経細胞の出現頻度がどのような分子機構に依存しているのかを解明するため、ephrinB2に着目した。昨年度の報告により、単一神経細胞標識系を用いてゼブラフィッシュephrinB2遺伝子を外来性に発現させると、後脳r2分節へ投射する神経細胞が有意に増加することを示した。視蓋各領域でr2へ投射する神経細胞の出現頻度は、非後部領域で野生型後部領域と同程度に増加しており、野生型で見られた視蓋領域間の差が消失していた。このことは、ephrinB2遺伝子が後脳r2分節へ投射する神経細胞の出現頻度に関与することを示唆した。ephrinBリガンドとEph受容体は、リガンドと受容体の相方向性にシグナルを伝達することが知られている。本年度は、ephrinB2の機能が逆行性シグナル伝達を介して行われているかを調べるため、同様の手法でドミナントーネガティブ型ephrinB2を過剰に発現させたところ、r2へ投射する神経細胞の出現頻度が有意に減少し、野生型非後部領域と同程度になることが示された。以上の結果は、ephrinB2が視蓋から後脳分節r2への投射する神経細胞の出現頻度決定に関与し、その機能は逆行性シグナル伝達を介して行われていることを示している。
|