本申請では、神経細胞の移動終了過程を制御する遺伝子の同定を目的として、マウス生体内で迅速に遺伝子を機能評価する解析系の開発を行った。平成16年度は、1)神経細胞の移動終了過程に特異的に発現する遺伝子群の同定と、2)Cre/loxP組み換え系を利用したsiRNA置換型ベクターの開発を行った。 1)神経細胞の移動終了過程に特異的に発現する遺伝子群を同定するために、皮質板上層部に高発現する遺伝子をGeneChip法を用いて、426遺伝子同定した。これらの遺伝子のうち、In situ hybridization法で320遺伝子について解析を行い、発生時期を通じて常に皮質板上層部に発現し、神経細胞の移動終了過程に関与すると考えられる31遺伝子を同定した(本結果は、第27回日本分子生物学会年会、神戸で報告した。) 2)siRNAベクターをES細胞に組み込むために、siRNA置換型ベクターの構築を行った。siRNA置換型ベクターを高率にゲノムDNAに組み換えるために、変異型loxP配列とピューロマイシン耐性遺伝子から構成されるsiRNA置換型ベクターを作成して、ES細胞に短期間に高率に組み込むことに成功した。次に、siRNAによる発現阻害効果によって、ES細胞の多分化能の喪失や大脳皮質形成以前の発生阻害を防ぐために、テトラサイクリン誘導型H1プロモーターを使用して、siRNAの発現をドキシサイクリンで任意に調整出来るように構築した。また、キメラマウス個体内でsiRNAベクター置換型ES細胞を、宿主側の細胞集団と区別するために、siRNA置換型ベクターは、緑色蛍光蛋白質EGFPの遺伝子を組み込み、siRNAによる遺伝子の発現阻害が起こっている細胞を容易に同定できる工夫をした。次に、本ベクターをマウス胎児の大脳皮質へin utero electroporation法によって導入して、大脳皮質神経細胞内でベクターが機能することを確認した。現在、本系を個体レベルで機能評価するために、神経細胞の移動終了過程に特異的に発現するUnc5に対するsiRNA置換型ベクターを作成して、キメラマウスの作成しつつある。 平成17年度は、Unc5に対するsiRNA置換型ベクターの有効性をキメラマウスで確認した後、神経細胞の移動終了過程に発現する31遺伝子について、ES細胞にsiRNA置換型ベクターを組み換え、キメラマウスを作成して、神経細胞の移動終了過程を制御する遺伝子群を同定する予定である。
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