研究概要 |
アルツハイマー病は,老人斑と呼ばれるamyloid-βペプチドの細胞間隙への沈着と,神経原線維変化(NFT)という封入体のニューロン内蓄積に特徴づけられる神経変性疾患である。Amyloid-βの前駆体、アミロイド前駆体蛋白質(APP)をニューロンに発現させると,カスパーゼ3が活性化してアポトーシスが誘導される。このことより、APPがニューロン内に異常に蓄積するとアポトーシスを引き起こすことが明らかである。一方,ショウジョウバエのニューロンにNFTの構成成分であるtauを発現させると,tauは過剰にリン酸化されてニューロン変性がおこる。ショウジョウバエのニューロンで,tauに微小管結合蛋白質/微小管親和性調節キナーゼMARK/PAR-1を共発現させると,ニューロン変性が顕著になる。逆に,tau微小管結合ドメイン内に存在するPAR-1によるリン酸化部位に点変異を導入したハエでは,ニューロン死が大幅に減少するとともに,他のキナーゼによるリン酸化も抑制される。以上の結果より,PAR-1/MARKによる微小管結合ドメイン内でのtauリン酸化が,過剰リン酸化とニューロン死の起点になることが示された。 本年度はまず,ショウジョウバエの実験系を新規に立ち上げた上で,tauによるニューロン死のメカニズムについて解析を進めた。上述のようにtauとPAR-1を共発現させるとニューロン死が誘導される。幼虫の運動ニューロンを用いて,tauとPAR-1を発現させた際の神経筋接合部を観察すると,tauのみを発現させた場合に比較して神経終末にリン酸化tauが蓄積して,シナプスボタンの数が大幅に減少することが明らかになった。今後,他のキナーゼとの相互作用やAPPとの関連を中心に研究を進めたい。
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