線条体は運動機能の制御に重要な役割を果たしている領域である。しかし、線条体における分子レベルでの運動調節機構はほとんど知られていない。ホスホジエステラーゼ10A2(PDE10A2)は、線条体投射ニューロン特異的に発現するcAMP-、cGMP-ホスホジエステラーゼであるが、個体における生理的役割は全く明らかにされていない。そこで、線条体が制御する運動調節機構を分子レベルで解明するため、PDE10A2欠損マウスを利用して、PDE10A2が制御する神経生理機能の解析を行った。 抗PDE10A抗体を作製し、免疫染色によりPDE10Aの発現を解析した。その結果、PDE10Aは線条体だけでなく、黒質網様部、淡蒼球など線条体投射ニューロンの軸索終末にも分布することが明らかとなった。一方、PDE10A2欠損マウスの線条体におけるPDE活性およびcAMP量を測定したところ、PDE活性は野生型マウスの約65%に減少し、cAMP量は約1.4倍に増加していた。また、ウェスタンブロッティングと免疫染色によりPDE10Aのタンパクレベルでの発現を解析したところ、PDE10A2欠損マウスにおけるPDE10Aの発現は野生型マウスの約10%に減少していた。このPDE10A2欠損マウスの行動を解析したところ、オープンフィールドにおける自発運動量は野生型マウスと比較して減少の傾向が認められたが、ホームケージにおける自発運動量は野生型マウスと比較して増加していた。また、新規環境下社会的行動テストにおいては、互いに会ったことのない2匹のPDE10A2欠損マウスがコンタクトする時間が有意に増加しており、社会的行動に変化が認められた。PDE10A2欠損マウスにおける自発運動、社会的行動の変化は線条体投射ニューロンにおけるcAMP、cGMPを介する情報伝達系の変化に起因するものであり、今後、更に詳細な解析を行う必要がある。
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