線条体は運動、情動の制御に重要な役割を果たしている領域である。しかし、線条体における分子レベルでのこれらの生理機能の調節機構はほとんど知られていない。ホスホジエステラーゼ10A2(PDE10A2)は、脳内では線条体特異的に発現するcAMP-、cGMP-ホスホジエステラーゼであるが、個体における生理的役割は全く明らかにされていない。そこで、線条体が制御する生理機能を分子レベルで解明するため、PDE10A2欠損マウスを利用して、PDE10A2が制御する神経生理機能の解析を行った。 PDE10Aの発現を詳細に解析したところ、線条体投射神経の樹状突起棘と軸索に局在することが明らかとなった。PDE10A2欠損マウスを解析したところ、線条体におけるcAMP量は野生型マウスの約1.4倍に増加し、CREBのリン酸化は約1.2倍に亢進していた。しかし、PDE10A2欠損マウスと野生型マウスにおけるcGMP量には有意差が認められなかった。このPDE10A2欠損マウスの行動を解析したところ、オープンフィールドにおける運動量は野生型マウスと有意差が認められなかった。更に、コカインを急性投与および慢性投与して運動量を測定したところ、PDE10A2欠損マウスと野生型マウスにおいて有意差は認められず、PDE10A2は自発運動の制御、コカインによる運動上昇効果、コカインによる逆耐性現象に必須でないことが示唆された。一方、新規環境下社会的行動テストにおいて、互いに会ったことのない2匹のPDE10A2欠損マウスが接触する時間が有意に増加しており、社会的行動に変化が認められた。PDE10A2欠損マウスにおける社会的行動の変化は線条体投射神経におけるcAMPを介する情報伝達系の変化に起因するものであり、線条体投射神経におけるcAMPを介する情報伝達系が社会的行動の制御に重要であることが示唆された。
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