痛みの伝達に関与するシナプスに特異的に発現する接着因子、カドヘリン8のノックアウトマウスの行動解析を行った。その結果、侵害性熱覚の逃避行動に何ら異常は見られなかったが、機械的痛みの逃避行動の閾値が正常に比して有意に上昇した。この異常は幼若期のみならず成熟マウスでも観察された。免疫組織化学的解析からカドヘリン8は一部の小型(C線維)細胞にのみ発現した。そのため、痛みの伝達・修飾に重要な役割を果たし、C線維とAδ線維の密な入力を受ける脊髄膠様質から記録を行い、シナプス入力様式をノックアウトマウスと正常マウスとで比較した。静止電位や膜抵抗など、膜特性および自発性EPSCの発生頻度や振幅に差は見られなかった。また、C線維とAδ線維のシナプス入力の割合にも差は観察されなかった。どちらの動物から記録されたEPSCもCNQXにより完全に抑制されたことから、EPSCはAMPA受容体を介するものと示唆された。一方、C線維誘起の単シナプス性EPSCの振幅を比較すると、正常に比してノックアウトマウスでは有意に減少した。Aδ線維誘起のEPSCの振幅に差は見られなかった。以上より、1接着因子、カドヘリン8を欠損すると、C線維と膠様質細胞に形成されるシナプスの強度が減弱し、機械的痛みに対する逃避行動が鈍くなることが明らかになった。本研究により脊髄痛覚回路におけるシナプス結合の形成にカドヘリン8が重要であることが示された。
|