研究概要 |
本研究の目的は、脊髄膠様質における痛覚情報伝達の制御に対してproteinase-activated receptor(PAR)がどのように作用しているのかをシナプスレベルで解明することである。そのためラット脊髄膠様質ニューロンに対してホールセル・パッチクランプ法を適用し、一連の実験を行なった。本年度は昨年度のPAR-1とPAR-2の研究に引き続いて、PAR-3とPAR-4のアゴニストペプチド(PAR-3:TFRGAP、PAR-4:GYPGQV)の作用を検討した。まず、各ペプチドの1μMを灌流投与し、保持膜電流に対するこれらの活性化の作用について調べた。その結果、この膜電流に変化がみられなかったことから、PAR-3とPAR-4の活性化はシナプス後細胞には直接影響しないことが分かった。次に、自発性興奮性シナプス後電流(sEPSC)に対するPAR-3とPAR-4の活性化効果を調べたところ、いずれもsEPSCの発生頻度および振幅に影響を及ぼさなかった。このことより、PAR-3とPAR-4の活性化はシナプス前神経終末からのグルタミン酸放出には影響しないことが示唆された。また、昨年の研究でPAR-1アゴニストペプチド(SFLLRN,1μM)の灌流投与によってsEPSCの発生頻度が増加することが明らかとなったので、この促進作用に対するTTXの効果について検討した。その結果、sEpscの発生頻度の増加はTTX存在下で影響を受けなかったことから、その作用はニューロンの膜興奮性増加によるものではなくPAR-1活性化の直接作用によるもので、シナプス前神経終末からのグルタミン酸放出促進によることが判明した。以上の結果より、脊髄膠様質においてPAR4-1性化が痛覚情報伝達の制御に関与していることが明らかとなった。
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