マグネシウム(Mg)は細胞機能の維持に必須の2価イオンであり、慢性的Mg欠乏と循環器疾患の関係は古くから知られている。すなわち土壌や飲料水中のMg含有量が低い地域において、循環器疾患による死亡率が高いことが疫学的調査によって明らかになっている。本研究では雌雄マウスをMg含有量が通常食の1/10以下のMg欠乏食で飼育し(Mg欠乏群)、それらの心臓の虚血耐性をLangendorff灌流実験によって検討した。また心筋組織中や血液中のMg含有量を原子吸光法にて測定し、虚血耐性とMg含有量の関係についても検討した。雄性マウスはMg欠乏食開始数日後から死に始め、欠乏食2週間で生存率は5%以下であったのに対し、雌性マウスはMg欠乏食開始8日目以降から死に始め、欠乏食2週間での生存率は約20%で、雄性マウスより有意に生存率は高かった。生存時の雌雄マウスの心電図、心拍数には異常は認められなかった。血液中のtotal Mg含有量は雌雄共に著明に減少し、重篤な低Mg血症が誘発された。心臓の虚血耐性はLangendorff灌流によってglobal ischemia(15分間)-再灌流(30分間)を行い検討した。その結果、対照群のマウスでは心臓の虚血耐性は雄性より雌性のほうが有意に良かった。Mg欠乏食2週間における虚血耐性は雌雄とも対照群と差は認められなかったが、雌性マウスのMg欠乏食3週間のグループでは虚血耐性は有意に低下した。Mg欠乏群の心筋のtotal Mg含有量は雄性マウスでは対照群と差はなく、ほとんど減少しなかったが、雌性マウスでは欠乏食2週間、および3週間どちらの群においても対照群と比して著明に増加していた。これらの結果より、慢性的Mg欠乏症(低Mg血症)によって、心臓の虚血耐性が低下することが示唆され、虚血耐性は雄性より雌性で強いことが示唆された。雄性より雌性で虚血耐性が強いことの原因の1つとして、心筋細胞内のMg増加し、Mgによる心筋保護効果があるためと考えられた。以上の結果は平成16年11月の国際心臓研究会(ISHR)日本部会(甲府)、および平成17年1月の第15回日本病態生理学会(岐阜)にて発表した。
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